一笑一若・メキシコ小話「俺とはしてない!」 富田さんからのお便りです。


 和田さん&W50年の皆さん、ご機嫌いかがですか?明日は早や7月、文月とは!

7月の名句といえば、 閑かさや 岩にしみいる 蝉の声 芭蕉」だが、この句には素晴らしい思い出がある。この句が収録されている、「奥の細道」のスペイン語訳は、メキシコのノーベル賞作家、オクタビオ・パスと林屋永吉元駐スペイン大使の共著による名著として、スペイン語圏諸国では、つとに有名である。晩年の大使のお話を聞く機会があったとき、私は貴重な裏話を聞くことが出来た。

大使は「奥の細道」の全ての句の翻訳と解説を彼一人で書いて、パスに推敲をご依頼したところ、パスの名で出版する書物にも関わらず、パスは語句の訂正など何もせず、大使のスペイン語訳を全面的に承認した、とのことだった。ただし、パスが書き換えた箇所が一か所あった。それが「閑かさや」の解説だった。パスはよほどこの句が気に入ったと見える。と共にいかに大使のスペイン語が完璧だったかも分かる。因みに大使は永年に亘り昭和天皇のスペイン語通訳でもあった。

そこで、私はサンアントニオに戻ったとき、パスによる、この句の解説を読んでみた。詩人パスの文章は難解なことで有名だが、この「閑かさや」の解説も私には「豚に真珠」だった。

 

さて、今週はカトン教授作の一笑一若・メキシコ小話「俺とはしてない!」をお届けします。今回の主人公アスタシオはババに輪をかけたような、お人好しでございます。ご用とお急ぎでないお方は、哀れアスタシオが何をやらかしたのか、いや、されたのかを下記のブログでお確かめのうえ、一笑一若・メキシコ小話「俺とはしてない!」E N J O Y !!!

https://iron3919.livedoor.blog/archives/10411825.html

富田眞三  Shinzo Tomita

メキシコ小話OK


 メキシコ小話「俺とはしてない!」
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【蛇足的まえがき】
 Caton作のメキシコ小話「俺とはしてない!」の主役アスタシオは初登場の中年男である。カトン小話には小学校低学年のいたずら坊主で成績は悪いが、どこか憎めないペピート、男好きで色っぽいセニョリータ・ピルリーナ、お人好しで、失敗ばかりするババルッカス、通称ババが皆さんにはお馴染みのトリオである。
 今回、初めてお目見えする、アスタシオの名前のアスタ(asta)は牛の角を意味する。
スペイン語でよだれを垂らしながら、ノロノロ歩く牛は、バカの代名詞なのである。
ブエノスアイレスに行ったとき、車が渋滞すると、運転手がみな右手の親指と小指で牛角の格好を作って、無言で前の車の運転手に鋭く何回も繰り出すのを見た。地元の人に聞いたところ、「バカ野郎、早く動け!」の意味だという。クラクションはもちろん、怒鳴っても罰金だからだ。
さて、アスタシオはババの兄貴格の「頭の弱いおっさん」なので、憶えておいて頂きたい。とにかく、メキシコ小話には、とんまな男たちが主役になる小話が多い。
では、アスタシオが何をやらかすか、じゃなく、何をされたのかをお楽しみください。
(テキサス無宿記)


    一笑一若・メキシコ小話「俺とはしてない!」
 どこの社会にもいる、うわさ好きな、その男はアスタシオにこう語りかけた。
「言いにくい話だが、お前の女房は村中のすべての男たちとメイクラブしているってことを知っているか、アスタシオ?」

「それはうそだ!!! いい加減なことを言うな」とアスタシオはわめいた。

「お前の気持ちは分かるけど、これは本当な話なんだ。お前の女房は村中のすべての男たちとメイクラブしているんだ」と男は繰り返した。

「それはうそだ!!!」と怒ったアスタシオはわめいた。「俺とはしてない!」。 

お後がよろしいようで…。