アメリカ便り「新型コロナ対策、日米の差」  富田さんからのお便りです。

  和田さん&W50年の皆さん、いかがお過ごしですか。今週のアメリカ便りは「新型コロナ対策、日米の差」をお届けします。アラブ首長国連邦88%、ポルトガル86%、カタール80%。これは新型コロナワクチンの接種率の世界ベスト3です。我国は米国の17位に次ぐ18位で、ともに62%です。さて、「便り」では二枚の衝撃的写真をご覧にいれます。マスク無しの観客が歓声を上げる、ヒューストンの大リーグゲームと無観客のTOKYO 2020のソフトボール試合。どうしてこんな差が出来たのか? 米国では無観客のTOKYO 2020はさっぱり盛り上がらなかったそうです。アメリカ便り「新型コロナ対策、日米の差」を下記のブログでご覧いただければ幸いです。

https://iron3919.livedoor.blog/archives/11379915.html

富田眞三  Shinzo Tomita

アメリカ便り青グラデーション


           新型コロナ対策、日米の差


         有観客の大リーグ、無観客のTOKYO 2020  
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              写真:(https://www.cnbc.com)
 日本でも毎日のように中継される、大谷の出場する、米国大リーグの観客席はマスク無しの観客で埋まり、自粛以前の正常な状態に戻っている。PGAゴルフも同様である。ところが、日本は7月のオリンピック、パラリンピックまでも無観客開催されたばかりである。どうして、日米にこんな差が出来てしまったのだろうか?

 CDC(米国疾病予防センター)による、9月6日現在の米国におけるCovid-19(新型コロナ) 累計感染者数は、39,488,866であり、最近の一日平均の新規感染者は、15万人程度である。なお、最盛期は50万人を超えていた時期もあった。Covid-19による累計死者数は、1,237,781となっている。
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             写真:(https://www.mainichi.com)
 一方日本の累計感染者数158万、一日平均新規感染者は最大で25,868(8月20日)、6日現在は8,234である。累計死者数は16,409(9月6日)である。
日米を比較すると、累計感染者数は米国の4%、死者数は同じく1.3%に過ぎない。
従って、日本のコロナ患者、死者数は米国に比べれば、圧倒的に少ない。

日本における最初の新型コロナ感染者は2020年1月14日、神奈川県在住の30代の男性例が報告されている。男性は1月6日、中国武漢市から帰国した後、直ちに入院したが快方に向かい1月15日に退院した。
米国の場合も武漢市から帰国した、シアトル市近郊の30代の男性の新型コロナ感染例第1号とされている。この男性の感染は2020年1月21日、ワシントン州の病院で確認された。新型コロナは両国ともにほぼ同じ時期に初症例が確認されたわけだ。
ところが、その後の日米政府の対応には大きな差があった。そのため、1年半後、初動の差が両国のコロナ禍事情の明暗を分けている。


           企業救済プランとワクチン開発
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              写真:(www.azbigmedia.com)
 2020年上半期には早くも米国中で新型コロナ(米国はCovid-19と称している)の感染が広まり、経済活動に大きな影響を与え始めた。
すると、トランプ政権は、早くも4月3日、Covid-19 の影響を受けた従業員500名以下の中小企業に対して、総額2兆2千億ドル(237兆円)にのぼる、担保、保証人無しの融資プランを発表した。
 このプランは融資を受けた企業が6月まで、従業員を解雇しなかった場合は、元金の支払いが免除される、という太っ腹な企業救済政策だった。
この件の詳細は、昨年4月25日投稿のアメリカ便り「米国の史上最大規模の経済安全
保障法」が詳しいので、ご覧いただければ幸いです。

 財政出動を発動した1ヶ月後、トランプ政権はワクチン開発計画支援に踏み切った。
5月15日、トランプ大統領はCovid-19 に対するワクチンの開発作戦計画を発表した。
これがCovid-19ワクチンの超高速開発(Operation Warp Speed)である。このプランは、官民が協働して安全で効果的な対Covid-19 ワクチンを開発、生産し、翌年(2021年)1月までに広く米国中に行き渡せることを目指すものだった。そして、製薬会社からの「買取事前契約」を含む、このプロジェクトには100億㌦(1兆円)の予算が付けられた。そして、計画通り、今年1月には全米でワクチン接種が開始されたのである。このようにトランプ政権は企業救済とワクチン開発の二刀流政策を実施したのだ。一方、日本で一般向けの新型コロナ・ワクチン接種が始まったのは、米国から3ヶ月遅れの4月だった。接種の遅れは、日本人を対象とした治験に時間を要したからだと説明された。このため、現在も続いている「緊急事態宣言」により、経済界は多大の悪影響をこうむっている。その上、事業者に対する救済策も米国に比べると、雀の涙に過ぎない。 


              マスク着用指示を緩和
 トランプ政権が公約した通り、5月には62%の米国人にCovid-19のワクチン接種が行きわたった。特に高齢者の1回以上のワクチン接種率は、50才~64(81%)、65才~74(94.7%)と非常に高率である。
これを受けて、公衆衛生の司令塔である、米国疾病予防センター(CDC)は今年5月中旬、「マスク着用指示」 を緩和したのである。
CDCはワクチンを二回接種した人々は保護マスク類を外しても構わない。同時に他人との間に1.8メーターの間隔をあける必要もない、と言明した。ただし、ワクチン未接種の人々のマスク着用義務は続く、とした。
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              写真:(https://www.cbsnews.com)
 CDC長官のロシェル・ワレンスキー医博は「ワクチンを二回接種した方々はこれまでパンデミックのために自粛してきた事々を再開出来ます。我々が待ち望んでいた、正常な状態に戻れたのです」。とCovid-19克服宣言を行った。

 米国疾病予防センター(CDC)の決断は米国民から歓呼の声を持って迎えられた。だが、小売店、レストラン側は、「客がワクチン接種をしたのか、してないのかをチェックすることは不可能だ」として、未だに顧客にマスク着用を要請している。
とにかく、米国は6月から、小売店、レストラン等の営業は正常化して酒類の提供も復活し、ラスベガスのショウも大リーグの野球、他のスポーツ・イベントもコロナ以前の状態に戻った、のである。
一部の大リーグのスタジアムでは、「ワクチン未接種のファン」に無料でワクチン接種を実施しているところもある。
今回、米国に住む家族に確認したところ、「マスク着用指示」は州によって差がある上、業者によって、マスク無しから「出来たらマスク着用して、或いは着用は義務」まで色々あるようだ。テキサスでは、大方のショッピングセンター、レストランでは着用を要請しているので、80%の客層はマスクを着用しているそうだ。

 2回以上のワクチン接種を完了した人が62.5%に達した米国で、未接種の30%の人々はワクチンそのものへの懐疑論や接種義務化への反対を唱える人たちだと言われている。9月9日、バイデン大統領は、連邦政府の全職員、契約業者にワクチン接種を義務付ける大統領令に署名した。

 米国が早くも「マスク着用義務化」を撤廃できたのは、ワクチン接種が大いに進んだことが第一の理由だろう。
と共に、財政出動も日本のように「予算逐次投入」ではなく、最初から思い切った予算を組んで、中小企業への資金援助をしたことが大きい。この際、本年6月まで「従業員を解雇しなかった」企業に貸付金の支払免除までしたことは、わが国が逆立ちしても出来ない芸当だろう。中小企業、特に飲食店の破産が少なかったことは、この措置のお蔭である。


              不測事態に対応出来ない日本
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                 写真:(www.kvia.com)
 公衆衛生を専門に扱うCDC(米国疾病予防センター)がCovid-19 に対応する連邦政府の指令塔として機能していることも重要である。1946年に創設された、この役所は本部、支部合わせて15,000余の医療関係職員を抱えて、全国的伝染病の予防と情報提供をその任務としている。
 今回の自民党総裁選挙に当たって、岸田候補は、コロナ対策として、「健康危機管理庁」の創設を唱えているが、これはまさに71年前に創設された、CDCの日本版である。
西欧の格言の「遅くともないよりまし」と言ったところである。

 もう一つの日米の差は、今回のような不測の事態が起こったときの、強いリーダーの有無だった、と筆者は思っている。菅首相は平時の宰相としては申し分ないが、国が緊急事態に遭遇したときに真価を発揮するタイプ、即ち乱世のリーダーではなかった。
強大だった安倍政権でさえ、「石橋を叩いても渡らない」厚労省の医系技官を意の如く動かせなかったことは、米国では考えられない。何故なら、大統領はそんな役人を直ちに解雇するからだ。

 同時に、国の制度として、憲法に「国家緊急権」の規定がないことも、緊急事態が発生した際、わが国政府は手を縛られている。先進国の多くは例えば、コロナ禍にあっては、都市のロックダウンが行えるが、日本では出来ないことが問題である。
とにかく、緊急事態下では無力だった、制度疲労を起こしている、わが国の官僚制度をぶっ壊すリーダーが出て来て欲しいものだ。

 だが、わが国における新型コロナ(Covid-19)の根本的問題は、我々日本人の持つ「ゼロリスク+100%安全」指向だと思う。わが国の新型コロナによる死亡率は世界的に見ても非常に低いにも関わらず、医師、政治家、マスコミは「ゼロリスク」、野球で言えば毎試合の完全試合を求めているようなものだから、話にならない。
米国を初めとする国々は、現在のワクチン接種効果で十分だとして、パンデミック以前の生活に戻っているではないか。余りにも「完璧主義である」ことによって、我々国民が赤ちょうちんで一杯飲みことさえ出来ないのは、もうご免だと思う今日この頃である。 
(終わり)