ブラジルに35mの大仏出現=小さな町が仏教で地域おこし=静岡県の永明寺の協力で建立(上) ニッケイ新聞WEB版より

仏教の仏像と神道の鳥居という有る意味ブラジルらしい佇まい(禅光提供写真。撮影=Vitor Nogueira)

仏教の仏像と神道の鳥居という有る意味ブラジルらしい佇まい(禅光提供写真。撮影=Vitor Nogueira)

 「エスピリトサント州に巨大な大仏ができたらしい」――突然、当紙読者からそう問合わせの電話があった。調べてみると、大仏は州都ヴィトリア市から高速道路BR-101号線を北進した先の人口約1万2千人ほどのイビラス市に建てられていた。大仏は101号高速道路沿いにある「鳥居公園(Praça do Tôrii)」内に作られ、台座を含めると35メートル、重さは350トンもある。奈良の大仏は高さ15メートルで重さ400トン、鎌倉の大仏は12・4メートルで120トン。リオ市コルコバードの丘のキリスト像は高さ30メートルなので、それを超える大きさだ。さっそくお寺を探し、住職に話を聞いてみた。

夜もライトアップされ荘厳かつ幻想的(禅光提供写真。撮影=Vitor Nogueira)

夜もライトアップされ荘厳かつ幻想的(禅光提供写真。撮影=Vitor Nogueira)

 大仏は曹洞宗寺白雲山禅光寺(ビッチ大樹住職、Mosteiro Zen Morro da Vargem)が建立したもので、街道沿いの同公園から2キロ離れた山中に寺院がある。1974年に設立された南米初の曹洞宗僧堂だ。
 同寺によると、この大仏は静岡県富士市永明寺(加藤孝正住職)やブラジル国内企業からの寄付を得て造られた。加藤住職と大樹住職は約40年前に愛媛で共に修業した同期の縁がある。18年から建立が始まり、20年10月に完成。お披露目式はパンデミックのために延期され、この8月28日に行われたばかり。

 「大きな仏像は欧米にはなく、造る機会があったら良いなとは思いましたが、こんな大きな大仏が出来るとは思わなかったです」と同寺の副住職ビッチ研道さんは語る。
 「寺が所在するイビラス市は工場や観光地資源も乏しい小さい町なので、こういった大仏を作ることで観光地となり、町にお店が増えて市の経済発展に繋がる」と期待をよせる。
 同寺ではコロナ禍前にも観光客の増加を図る「地域おこし」のような取り組みを実施している。四国の88カ所巡りから着想を得た「巡礼の道(Caminhos da Sabedoria)」は仏教とキリスト教という異なる宗教間の垣根を無くそうという巡礼旅でもある。
 イビラス市中心部にある教会から始まり、同寺を経て市内のキリスト教会23カ所を5日間かけて巡るというもの。距離にして108キロに及ぶ。1泊目は同寺に宿泊し、2泊目以降は市の一般家庭に泊まってもらうことで「いずれ受け入れ家庭が宿屋として発展していく事」が期待されるという。
 この巡礼ではパスポートに巡った個所のスタンプを押せるようになっており、全て巡ると修了書も取得できる。国外からも参加する人がいる好評ぶりだという。
 寺では今回のような地域経済活性化の取り組みのほか、近隣コミュニティの低所得者や非就労者等への経済的自立支援もしている。同公園内に陶芸学校(Escola de Cerâmica Kanzeon )があり、陶芸家のキミ・ニイさんが指導する。
 制作した陶芸作品の販売もしており、売上げは生徒に支払われるほか、プロジェクト持続のための資金にも充てるなど多角的な地域貢献を行ってきた。
 仏像は昨年12月に開眼(かいげん)法要を日本とブラジル間でリモート開催し、日本側には曹洞宗大本山永平寺の南澤道人(みなみさわ・どうにん)禅師が参加した。その模様はユーチューブ(https://www.youtube.com/watch?v=Nhlbp-kVsEc&t=816s)で見る事が出来る。
 8月28日のお披露目式には地域の政治家などに向けて法要が行われ、グローボなどの現地メディアが報道した。現在1カ月間で市人口を上回る2万から2万5千人が大仏を参拝に訪れているが、報道直後はそれを上回ったという。
 大仏のある公園は常に開かれており、無料で立ち寄る事が出来る。公園は寺の30周年記念日にあわせて作られ、園内には錦鯉の泳ぐ池や大仏の横にも15体の仏像が並ぶ。15体の仏像は40周年記念に建てられたものだという。(つづく)