新連載 桜井悌司さんの『ブラジルを理解するために』(その28)
連載エッセイ28
単身赴任か家族帯同か?
執筆者:桜井悌司(日本ブラジル中央協会常務理事)
サンパウロに駐在して驚いたことは、駐在員の単身赴任が多いことであった。おそらく商社やメーカーの社長クラスの半分は単身赴任であろういう印象を持った。単身赴任の理由は、①子供の教育上の心配、②治安の悪さのために家族を帯同できない、③親の介護のお世話を奥さんに任せなければならない、④奥さんが来たがらない等々があげられる。
単身赴任者の生活は外から見ていても味気ない。唯一の楽しみは、週末のゴルフという駐在員が多かった。私はゴルフを月に1回か多くとも2回、週末に、PLゴルフクラブ他でやっていたが、行くと必ず会う人が相当数いた。おそらく、彼等は、毎週末の土曜日、日曜日には皆勤していると考えられた。コンペの時はいろいろな人とプレイすることになるが、それ以外の時は、ごく限られた親しい日本人とゴルフをエンジョイしているのだろう。日系のゴルフクラブなので、日系コロニアの方はおられるが、ブラジル人は極めて少ない。当然、話題と言えば、ゴルフとビジネスだけになり、ブラジルの政治、経済、社会、文化等に話は及ばないし、現地社会にも融け込んでいるとは到底思えなかった。ウイークデーは、ブラジル人とのビジネスで忙しく、出張で飛び回っているので週末くらいはゴルフでもしてリラックスしたいという感覚は理解できるものの、もっと有意義な時間の使い方もあるのではないかと考えてみたりもする。
私は、ブラジル日本商工会議所で、コンサルタント部会長や常任理事をしていた。最も力を入れたのは、家族そろってのピクニックや遠足であった。写真にあるように,カンピーナスにある東山農場には、社長の岩崎透氏に無理をお願いし、バス3台を連ね、120名の会員の家族が参加した。コーヒー農場での各種実演や岩崎社長が関係されているサンリオのハローキッティ人形を子供たちにプレゼントし、大いに喜んでいただいた。もう1枚の写真はプロポリス工場に行ったときの写真である。サンパウロ郊外の花樹園3か所訪問も評判が良かった。
サンパウロにはフラッチと呼ばれる長期滞在用のスイートがある。キッチン等がついている施設である。私も赴任直後、アパートを探すまでの期間、パライソ地区のフラッチに滞在したが、滞在者のほとんどはあらゆる業種の中長期の単身赴任者であった。中には、日本人だけかと思われるフラッチもある。
外国人夫婦の場合、単身赴任すると言ったら、離婚ものだとよく言われる。そのため海外駐在のため別居するという発想は存在しないのだが、日本人は何故か、単身赴任が多い。家族に対する考え方が異なるものと思われるが、外国人から見ると極めて不思議で理解不能の現象のようだ。そう言えば、受験競争の激しい韓国でも子供の教育のため単身赴任するケースもあるそうだ。私は、メキシコ、チリ、ミラノ、サンパウロと4カ国に駐在したが、すべて家内同伴であったのはラッキーであり、家内に感謝している。
今、家族同伴と単身赴任の一般的なメリットとデメリットを挙げてみよう。
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家族同伴
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単身赴任
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メリット
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*生活が安定する
*旅行、パーティ、買い物等で家族と思い出をシェアできる
*奥さん人脈、子供人脈で人間関係が広がる
*国際的に見てごくノーマルな状態
*子供をインターナショナル・スクールに通わせることにより、国際人に育てることができる
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*時間が自由に使える
*仕事に専念できる
*好きなことに没頭できる(ゴルフ、旅
行、恋愛、遊び、研究・学習等)
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デメリット
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*子供の教育に不利になる可能性がある。現地日本人学校に通っても帰国後、メリットが無い。
*インターナショナル・スクールなどでは、授業料が高い
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*生活が不安定かつ単調になる
*家族関係、夫婦関係が希薄になる
*現地に融け込めない
*国際的に見て異常
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思いつくまま挙げてみたが、どう考えてみても、単身赴任のメリットは多くはない。やはり、どこか不自然で国際スタンダード、グローバル・スタンダードではない。ブラジル人に、日本人の単身赴任者の多さにつき説明しても納得が得られず、不可解な日本人という印象が残るであろう。この問題についてもっと派遣元の政府、政府機関、団体、企業はもっと真剣に考えるべきであるし、個人としても何が幸福なのか、何が家族にとってベストなのかを考えた方がいい。
(2016年10月上旬執筆)
写真 家族そろっての東山農場見学

写真 プロポリス工場見学
