アメリカ便り「世界エネルギーの一大転機」  富田さんからのお便りです。

和田さん&私たちの50年の皆さん、アメリカ便り「世界エネルギーの一大転機」をお届けします。昨年はエネルギー産業に地殻変動が起こった年でした。逆オイル・ショックもありました。では、何がどう変わったのか?ご用とお急ぎでないお方は、下記のブログをお訪ねのうえ、
アメリカ便り「世界エネルギーの一大転機」をご覧いただければ、幸いです。
Shinzo Tomita


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            世界エネルギーの一大転機
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 手前が昔の油井ポンプ、後方に見えるのが最新式掘削装置(energyindustriesphotos.com
  昨年は世界のエネルギー産業にとって一大転機の年だった。発刊されたばかりの、ブリティッシュ・ペトロリウム(以後BP)制作の2015年度統計報告は、「現在の世界のエネルギー状況はもちろん、将来の需要供給計画も総括」して、昨年は一大転機の年だった、と結論している。BPは石油業界に地殻変動が起こりつつある、と言う。2014年はエネルギー市場に於ける、非常に重要な年だったと、将来皆が思い出すだろう、とも書いている。

 石油の世界的供給量は上昇し続けている。特に米国はシェール・オイルとガスを大量に生産している。OPEC諸国、ロシアも高いレベルの生産量を保っている。OPEC以外の国々、特に米国が、もっと長く続くと思われた、OPECの影響力を弱体化させたのである。

 さてエネルギー過剰生産は今後も続くだろうが、ここで、日本人が言う、昨年の「逆オイルショック」を振り返って見よう。
 昨年の11月下旬、原油価格が下落し始めたとき、世界最大の産油国サウジアラビアは、世界第二位のロシアに産油減産を持ちかけたが、返事はNOだった。1127日のOPEC総会で、加盟12か国は当時の彼らの日産3,000万バレル維持を決定した。案の定市場に原油があふれ、価格が見る見るうちに下落して行った。アメリカ人たちはこれもサウジの戦略ではないか、とサウジとOPECを過大評価したが、最早彼らに原油市場をコントロールする力はなかったに過ぎなかった。因みに2013年の原油世界総産出量は、日産9,000万バレルだった。OPEC諸国が1/3を占め、これに続く二番手のグループである、ロシアと米国と中国の三国が1/3を占めていた。
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 弱体化したOPECの総会風景。12ヶ国が加盟。アラブ諸国が多い。(breakingenergy.com
 ロシアは原油輸出国だが、米、中は輸入国である。特に米国の石油業界は昨年の暴落の原因はシェール・オイルの増産の所為だと云われて、キツネに抓まれたような顔をしていた。何故なら米国は、一日当たり1,600万バレル消費しながら、国内産油量はその半分に過ぎなかったので、エネルギーの自立を目指してその不均衡を是正したい、という思いが強かった。が、シェール・ブームによって産油量が増えると、石油大手は原油輸出解禁を声高に訴え初めた。このままでは、永久に国際石油市場を失う、という危機感を持ち始めていた。
 米国は輸出こそしないが、国内産油量が増えると、その分輸入量が減り自動的に輸出国側に原油が余ることになる。一方、67年の長期間、原油の高価格が続いていたため、世界的に需要が下がり始めてもいた。
米国は輸入の減少によって「需要の低下」を招き、シェール・ブームによって産油量を増やす、という結果論から見ると二重の「悪手」を指した。
そして、(需要の低下)+(供給の増大)=価格の低下、と言う石油業界の法則通りの結果となった。

  しかし、以上は地殻変動が起こりつつある、供給者側の話である。次は消費者側の話に移ろう。
  BP2014年、世界エネルギー消費量は0.9%の増加に留まる、と言う。これは前世紀末以来、史上最低のレベルだった、中国の石油需要の低成長が大きく影響している。同時に再生可能エネルギーが新しいエネルギー供給源として育ちつつあることも大きい。昨年の暮れから正月に掛けて、筆者はテキサス、ニュー・メキシコ、アリゾナ、カリフォルニアを車で旅行してきたが、沿道で見た風力発電塔と太陽光発電システムは驚くほど広汎な地域に設置されていた。また、同年は世界的温室効果ガスの排出量も1998年以来最低水準の増加を記録している。

以上を総合すると、我々は今、エネルギー消費行動の大きな変わり目の時代に直入していることに気づくのである。そして2014年はその曲がり角に当たる。

  さてIEA(国際エネルギー機関)は世界的需要はエネルギー低価格に反応して上昇しつつある、と言う。IEAは本年度の需要増加は、一日当たり30万バレルになる、と予想している。そして本年度の石油消費量は一日当たり140万バレルの増加が期待される。しかし、IEAは需要の増加分は、最近は慢性的に供給過多になっているので、原油価格を押し上げるほどの力強さはない、としている。
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 テキサス・イーグル・フォードに近いコーパス・クリスティ港のバレーロ精油所(hydraucarbons-technology.com
 ところで米国の石油専門のoilprice.com に言わせると、最新のEIA(米国エネルギー情報局)のデータは問題を解明する代わりにより多くの疑問を抱かせる代物である、と言う。即ちEIAは月報の中で米国の7月の油井掘削件数は6月と同様に減少が続き、一日当たり91,000バレルの減産が起こる、と予言していた。
 ところが、同じEIAの週間データ報告によると、米国の原油在庫減が加速している。6月第一金曜の在庫量はここ数か月間最大の下げ幅である、680万バレルを記録している。と言うことは、産油量は鈍化し、需要は上昇したことになる。

  しかし、今度は全体像を少々泥で汚すある事実が見えて来た。EIAによると先週の産油量は、直近数週間の平均産油量を上回る、一日当たり24,000バレル増加した、と言う。では、産油量は増えたのか、減ったのか?
  EIAの月間油井掘削件数レポートによると、原油産出は減少した、と言っている。しかし、週間データによると、増加している。どっちが正しいのか?これでは投資家やトレイダーを混乱させるだけである。多分もっとはっきりしたデータが得られる数週間後まで、明瞭な全体像はつかめないだろう。しかし、「この不愉快な状況は、米国石油市場がバックミラーで過去のデータを見ながら運転している、ことを示している」とoilprice.comのアナリストはご立腹である。

政府機関さえ間違える、石油事情をマスコミが正しく理解できるわけがない。2008年以降、投資銀行や石油会社が描く超楽観的シナリオがマスコミによって増幅され、シェール・ブームが起こったことは記憶に新しい。特に日本のマスコミはシェールと言えば、ガスだけしか無い、と信じていたのだから、話にならない。次回、米国のシェールに関する興味深いテーマを取り上げたい。
(終わり)
Oil& Energy insider 12/06/2015 , BP 2015 Statistical Reviewを参考にしました。