キューバ=Fカストロと中南米=(下)=軍政の反動で左派政権一色に=今後のキューバの風向きは? ニッケイ新聞WEB版より


 25日に逝去したキューバのフィデル・カストロ前評議会議長が中南米に与えた影響をもう少し見てみよう。
 90年代にはソ連などの東欧の共産圏が崩壊。共産主義の基盤を大きく失う中、キューバもドル解禁などの対策を余儀なくされた上、難民も後を絶たず、カストロ体制の今後も危ぶまれていた。
 だが1998年、中南米の状況は一気に変った。それがベネズエラでのウゴ・チャベス大統領就任だった。19世紀の南米諸国独立の父、シモン・ボリバルやフィデル氏を敬愛するチャベス氏は、反米を唱え、社会主義路線を打ち出した。
 ブラジルでも、2002年の大統領選で、軍政時代の反抗の闘士が集まった労働者党(PT)のルーラ氏が当選した。ルーラ政権の初代官房長官のジョゼ・ジルセウ氏はキューバでの軍事訓練を受けていた。ルーラ氏の後を継いだジウマ氏も、ゲリラとして戦い、軍政下で拷問を受けた経験がある。
 同様に、ボリビア、アルゼンチン、チリ、ウルグアイ、エクアドル、コロンビアと、2000年代は中南米の国々が次々と左翼政権に転じていった。それはまるで、軍政時代の左翼活動家らが虐げられた60~70年代の恨みを晴らそうとするかのようだった。
 その一方、キューバでは、2000年代半ばからフィデル氏の体調不良が続き、体制は弟のラウル氏に移行。2008年には同氏が正式に評議会議長となった。キューバはラウル氏のもとで市場開放を進め、15年には米国のオバマ大統領との間で国交を回復させるなど、キューバ危機~軍政時代と続いてきた中南米での動乱も収まる方向に行くように見えた。
 だが、ここ数年で状況はまた変化しはじめた。ベネズエラでは2013年のチャベス大統領死去後、後継者のマドゥーロ政権で世が混乱。不満を叫ぶ国民と、独裁体制を強めて反動化する政府との間の対立が深まり、危機を迎えている。ブラジルでも、ラヴァ・ジャット作戦での不正摘発や経済悪化などで国民の不満が募り、
ジウマ大統領が罷免されたため、PT政権も13年間で幕を閉じた。
 キューバではラウル氏による体制が既に8年続いており、民主化を叫ぶ大きな運動もないから、フィデル氏の死後、すぐに体制が激変するとは考えにくい。だが、中南米で左翼政権がほころびはじめ、米国でのドナルド・トランプ氏の大統領選当選など、保守回帰の動きのある中、キューバが次にどういう動きを見せるかは注目される。(終わり)