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1962年5月11日サントス着のあるぜんちな丸第12次航で着伯。681名の同船者の移住先国への定着の過程を戦後移住の歴史の一部として残して置く事を目的とした私たちの40年!!と云うホームページを開設してい居りその関連BLOGとして位置付けている。

カテゴリ: 『ブラジルを理解するために』桜井

ブラジルを理解するために 連載エッセイ64 


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連載エッセイ

最近のサンパウロ日本祭り

 

執筆者:桜井 悌司(ラテンアメリカ協会 常務理事)

 

「はじめに」

 

2017年9月頃、日本ブラジル中央協会のホームページに、「フェスチヴァル・ド・ジャポン(日本祭り)のこと」https://nipo-brasil.org/archives/12768/)という原稿を執筆した。内容は、サンパウロで毎年開催される世界最大の日本祭りである「フェスチヷル・ド・ジャポン」の歴史、テーマの変遷、イベントの内容等につき紹介したものである。同時に、パラナ州のクリチバ市、ロンドリーナ市、マリンガ市の3都市の日本祭りと、リオ・グランデ・ド・スル州のポルトアレグレ市の日本祭りも紹介した。サンパウロの日本祭りについては、2017年まで紹介したので、本稿では、2018年と2019年の様子を中心に、現地のニッケイ新聞やサンパウロ新聞のウエブ版の報道等に基づきお伝えしたい。

 

 サンパウロ人文科学研究所の調査によると、ブラジル全土で、日本祭りは88か所、盆踊りは、138か所で行っており、437の団体が所有する会館を拠点に日本文化の発信を行っている。サンパウロの日本祭りは、ブラジル日本都道府県連合会(県連)により、1998年に、ブラジルへの日系人移住80周年を記念して、初めて開催され、今年で22回目を迎える。会場は、当初イビラプエラ公園やサンパウロ州議会駐車場で行われていたが、2005年からイミグランテス展示場〈現サンパウロ・エクスポ展示場、サンパウロで最大の展示場〉に移された。2006年以降、毎年テーマを設定している。

 

「過去5年間の入場者数とテーマの推移」

 

2015年以降過去5年間の推移をみてみよう。

1)入場者総数 県連の発表によると、

第18回(2015年) 約15万人、この年までは万単位の数字を発表していた。

第19回(2016年) 168,000人

第20回(2017年) 182,000人

第21回(2018年) 215,000人(日本人移住110周年に当たる)

第22回(2019年) 192,000人

2)テーマの推移

第18回(2015年) 日伯120年の絆

第19回(2016年) スポーツと健康

第20回(2017年) 20年の軌跡

第21回(2018年) ブラジル日本移民110周年

第22回(2019年) 情報ネットワーク

 

「第21回日本祭り(2018年)の概要」

 

 第21回日本祭りは、2018年7月5日(金)から7日(日)まで、サンパウロ・エクスポ展示場で開催された。笠戸丸でブラジルに初めて移住した年である1908年から110周年記念に当たるため、テーマも「ブラジル日本移民110周年」であった。そのため、日本祭りの会場の面積も拡大され、来場者数も過去最大の215,000人(うち59%が非日系人)と目標の20万人を大幅に上回った。この日本祭りの注目すべき特徴を下記に紹介する。

 

1)眞子内親王の「ブラジル日本移民110周年記念式典」ご臨席と「日本祭り」の見学

日本移民110周年記念式典が日本祭りの会場内の式典会場(5,000人収容)で行われたため、眞子内親王は、式典で挨拶をされるとともに、式典後の音楽、太鼓、踊り等のパーフォーマンスをご覧になった。眞子内親王のご臨席で会場は大いに盛り上がった。

2)ギネス世界記録への挑戦

 県連では、510種類以上の日本食を提供する日本国外の祭りという記録を目指し、ギネス世界記録に挑戦した。日本食の定義等で審査が遅れたが、最終結果は498と500までに2食足りないとなり認定には至らなかった。それでも大きな話題を集めた。眞子内親王もギネス会場に立ち寄られた。

3)Beauty Fair」の会場内開催

 化粧品等で大成功をおさめている池崎商会が、通常、センター・ノルチ展示場で開催されている「Beauty Fair}を式典会場に隣接して、3,000平米の規模で同展を開催した。そのため女性訪問者が多数来場することになった。

4)農林水産省主催のデモンストレーション

農林水産省のブースでは、4人のシェフが「お弁当」をテーマにして、各種デモンストレションを行った。

5)ジェトロ主催による「地方特産物試食会」

ジェトロは、日本祭りの会場のジェトロ・ブースで、14都道府県から集めたアルコール飲料、お茶、お菓子、調味料等26品目を展示・試食会を開催し、商談等を行った。ブラジル市場への参入を目指す日本の中小企業の販路開拓に貢献するのが、目的であった。会期中に、970人のビジネスマンの来場があった。

6)サンタクルス病院主催無料検査・測定会の実施

日系コロニアの病院であるサンタクルス病院は、無料で各種測定を実施した。合計4,500人の健康増進に寄与した。受診者には、「健康増進6原則」というパンフレットがプレゼントされた。

7)郷土食コーナー

お祭り最大のアトラクションである「郷土食コーナー」には、46都道府県と8団体の合計54団体が参加した。高知県のかつおのたたき、和歌山県のお好み焼き、大分県の鳥めし、岩手県のわかめうどん、山梨県のイチゴ大福等が人気を集めた。

8)その他興味のあるイベント

  筑波大学サンパウロ事務所主催の「就活相談」

日本に留学した後、どのような会社に就職できるかにつき、企業の協力を得て、就職相談を行った・

  トヨタブラジルによるTPS(トヨタ生産方式)の研究会を開催

希望のあった8県人会と1団体に対し、料理提供時間の短縮のための研究会を行った。受講した和歌山県では、従来15分かかっていた時間が8分に短縮された。

 

「第22回日本祭り(2019年)の概要」

 

 今年のサンパウロ日本祭りは、7月5日(金)から7日(日)まで、「情報ネットワーク」というテーマのもとに、サンパウロ・エクスポ展示場で開催された。昨年は、日本移民110周年であったため、特別に力の入った日本祭りであったが、今年は目標の20万人に届かず192,000人であった。その理由として、昨年が特別であったとか、気候が寒かったとか、景気が悪いということがあげられている。

 

1)会場の構成

毎年マイナーな変化はあるが、第22回日本祭りに基づき、その内容を紹介する。

  入り口を通ると最初に出展社コーナーがあり、トヨタ、ホンダ、日産等の進出企業の大型ブース、その奥には、サクラ醤油、アズマキリン、ヤクルト、サンリオ等の企業、さらには、援協やサンタクルス病院等が展示ブースを構える。

  バラエテイ広場 多くの中小出展者が並ぶ。

  日本政府関連広場 サンパウロ総領事館、農林水産省、ジェトロ、JICA,筑波大学が出展した。

  高齢者広場 体験、講演、紹介の3コーナーがあり、体験コーナーでは、ゲートボール、ラジオ体操、健康体操が行われる。講演コーナーでは、ポルトガル語による高年齢者及び介護者に役立つ講演が企画される。紹介コーナーでは、デイ・ケア・サービスやアルツハイマー対応などを行う団体による各種照会を行う。

  アキバ・スペース  東京の秋葉原を想定した若者向けのアニメ、マンガ、コスプレコーナー。、

  赤のステージ 小型のステージで各種文化的なイベントが行われる。

  食の広場 日本祭り最大のアトラクションがこの食の広場で、日本のほとんど全県の郷土食が賞味できる。今年の祭りでは、和洋スイーツで競争が繰り広げられた。シュークリームだけでも9県、イチゴ大福でも4県からのエントリーがあった。

  緑のステージ 日本祭りの中央ステージで、プログラムを見ると、7月6日(土)には、午前9時から午後7時まで、5分~30分刻みで、プロ、セミプロ、アマのパフォーマーによる演目が組まれている。最後のプログラムとして、ミスニッケイ・コンテスト(2011年の第14回日本祭りから本格的に始まる)が行われた。7日(日)も同様の方法で、朝から夕方まで各種演目が行われ最後には、コスプレ・サミットが行われた。

  なお、日本祭りの入場料は、前売り22レアル、当日28レアルで、学生及び60歳から65歳までは14レアル。65歳以上は無料となっている。

  山田康夫県連会長によれば、日本祭りには、1日あたり、約4,000人のボランテイアが活躍しており、その内の98%が無報酬である。

 

2)いくつかの話題

  食の広場 今年は、座席のスペースが倍になったため、比較的ゆったり食事をとることができるようになったとの評価。また前述したトヨタ生産方式の学習が効を奏したせいか、料理の調理から提供までの時間が短縮し、待ち時間が短くなったということで好評だった。一方、来場者減によって、完売の県とそうでない県に明暗が分かれた。

  政府機関の国際交流基金は、剣玉ワールドカップ第3位の秋元悟氏を招待した。ジェトロ・ブースでは、日本産のコメのPRを兼ねておにぎり作り体験と和牛の試食が行われた。、サンタクルス病院では、傘寿(80歳)の方々に、傘のプレゼントを行った。

  日本祭りとほぼ同時期に、サンパウロで3番目に大きいセンター・ノルチ展示場でKPOPのイベントが開催された。このイベントは、ブラジル韓国文化センター主催で、2017年から開始されたもので、韓国のプロのKPOPグループの公演である。スペース的には、日本祭りの6分の1程度であった。今年の観客動員数は1万人くらいという。入場は無料。また、それとは別に、今年の5月には、韓国のアイドルグループのBTSがサンパウロのパルメイラス・スタジアムで2回の公演があり8万人を動員したという。

  さらに、韓国政府は、8月4日にパウリスタ通り460 「韓国文化院」を移設し、最新技術を駆使して、韓国文化の普及を図ろうとしているとニッケイ新聞が報じている。

  日本祭りのメインステージである緑のステージでは、数多くのプログラムが展開されたが、博覧会で使われる「持ち込み催事」的なもの、県人会や各種音楽・舞踊・太鼓集団によって行われるものが多い。言わば大部分がアマチュアとセミプロなのである。上記③との関係で、所謂インパクトの強いプロのパーフォーマンスに欠けるということになる。ニッケイ新聞の論調によると、日本政府は、ジャパンハウスには、毎年膨大な予算が投入されているにも拘らず、日本祭りへの支援は微々たるものであり、もう少し日本政府の支援を要望したいと伝えている。

 

「日本祭りの更なる発展に向けて」

 

 以上、最近の日本祭りの動向について、触れてみたが、今後の発展のためにどうすればいいかにつき、筆者個人の意見を紹介する。

 

1)非日系人の来場者を増加させる。

県連の山田康夫会長によれば、前述のとおり、59%が非日系人ということである。

この数字を徐々に上げていくことが望まれる。なぜなら、この祭りの重要性から言っ

て、「日系人のための日本祭り」というより「ブラジル人のための日本祭り」になる

に十分に値するからである。そうなれば、来場者数の増加を見込むことができるし、日本政府や企業もより多くの支援をせざるを得なくなるからである。

 

2)売り物の郷土料理の味・調理方法に更なる創意工夫をこらす。

今年の5月、ニッケイ新聞に中野晃治氏が「巨大商業化した日本祭りへの提言=

来場者のための本当のカイゼンを」を発表された。小見出しに「カイゼンされない郷

土食広場」とか「味覚を楽しめない郷土食」と結構厳しい意見が出されていた。これ

に対し、山田県連会長から反論が出された。郷土広場の料理の特徴は、「おふくろの

味」だという。それはそれでいいのだが、「おふくろの味」も全く同じものではなく、

年々改良を加え、より美味しいものにして欲しいというのは来場者の総意であろう。

したがって、来年の日本祭りまでに、各県人会内で議論と実践を重ね、さらに魅力あ

るオリジナル・メニューを作ることが望まれる。「おふくろの味」も年々変わるもの

である。またトヨタ生産方式(TPS)の学ぶことによって、調理から提供までの時間

が飛躍的に短くなったということだが、さらに効率的になるようにすることが望まれる。回転が速くなればなるほど収益に結び付く。今年の日本祭りの郷土食広場のスペースが大きくなって、快適に食べられるようになったことは素晴らしいことである。

 

3)ステージのショウの目玉をつくる。

ステージショウで目玉となるようなショウが1つ以上できれば、より多くの来場

者を呼び寄せることが可能となろう。具体的には、①日本政府、国際交流基金や都道

府県政府に依頼し、プロのアーチストや有名人、グループを派遣してもらう。②日本

からの著名なアーチストの訪伯を日本祭りに合わせてもらう。③ 県連が全国の都

道府県人会のネットワークを活用し、時間をかけて、ボランテイア価格で出演してく

れそうなアーチストを探す,等の方法がある。

 

4)ボランテイア・マニュアルを作り、より効率的にする。

    日本祭りは98%がボランテイアであり、無償で献身的に手伝っているという。こ

のことは、素晴らしいことである。ただボランテイアの中には、毎年協力し、業務の

遂行に熟知している人も多いであろう。しかし、おそらく大部分の人が意気に感じてボランテイアの応募してくるものと推察される。そのようなボランテイアは、初めて慣れない作業をすることになる。そこで、マニュアルの作成が重要になってくる。既に存在するかもしれないが、筆者の考えを紹介する。県連として、「日本祭り総合マニュアル」をポルトガル語と日本語で作成する。この中には、日本祭りに関わるあらゆる業務をとりあげ、項目ごとにチェックリストを添付する。この総合マニュアルに基づき、各県人会が自分たちの業務内容に従って、「日本祭り用〇X県人会マニュアル」を作成するのである。マニュアルによって、時間とお金の節約が可能となり、ボランテイアに対するトレーニングのため資料ともなり得る。 

 

以上、筆者個人の意見を紹介したが、読者のご意見もお聞きしたい。

 


連載エッセイ63  新しいラテンアメリカ人材を求めて



連載エッセイ

新しいラテンアメリカ人材を求めて

 

桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

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最近、長くブラジルやラテンアメリカに滞在している方々と意見交換していると、今後ますますビジネスが難しくなりつつあること、新しいタイプの駐在員が求められている等が話題になる。そこで、筆者の全くの独断で、新しい理想的なラテンアメリカ人材像を考えてみた。

 

ラテンアメリカは、難しい局面にあることは、誰もが認めるところである。政治面を見ても、北の大国のメキシコは、ロペス・オブラドール大統領、南の大国のブラジルは、ボルナソロ大統領と政策立案に、不確定要因が多く、その結果、何が起こるかわからないと言った感じである。アルゼンチンは、経済的に低迷しており、ベネズエラにいたっては、いつ崩壊してもおかしくない状況である。少数の国を除いては、今後10年は困難な時代に遭遇するものと思われる。

 

ラテンアメリカに駐在する現地法人の社長・幹部には、当然ながら言語を含むコミュニケーション能力、現地理解力、経営力、治安対応能力やリーダーシップが求められるが、それ以外の面で、どんな資質を持った人材が必要とされるかについて探っていきたい。

 11の人材像を提示するが、必ずしも重要順ではないことを断っておきたい。

 

1)CSR(企業の社会的責任)センスのある人材

 

CSR(企業の社会的責任)については、日本でも話題になり、「日経ソーシャルイニシ

アテイブ大賞」、「企業フィランソロピー大賞」、「環境コミュニケーション大賞」等の表彰制度もある。しかし、国内企業を対象とし、概ね活動地域は国内であることが多い。ラテンアメリカの中で、ブラジルなどを見ると、主要な外国商工会議所が、CSR活動に熱心で、会員企業に対し、表彰制度を持っている。例えば、米国商工会議所は1982年に

ECO賞(企業―コミュニテイ)」を、ドイツ商工会議所は、2000年に「フォン・マルチウス環境賞」を、フランス商工会議所は2002年に「LIF賞(フランス革命の自由、平等、博愛)」を創設した。対象分野は、教育、環境、貧困、教育、犯罪防止、芸術等広範囲に渡っており、外国企業やブラジル企業内での、CSR活動に対する関心の高さが理解できる。ブラジル日本商工会議所内でもCSR活動を取り上げている。会員企業に対し、アンケート調査を行ったり、必要に応じて、寄付行為の呼びかけ等を行っている。進出企業の多いブラジルやメキシコの日本商工会議所は、表彰制度等を含め、組織としてCSR活動にどう取り組むかを真剣に考える時期に来ているように思われる。また、個別企業や駐在員個人としても自社を取り巻く環境・問題を考慮に入れた行動が求められる。進出先により、CSR活動の実施事業内容が異なるので、現地事情やニーズに沿って新しいプログラムを考案することが必要だ。企業の幹部は、貧困、教育問題に手を差し伸べるという姿勢を持ちたいものだ。日本企業のCSR活動は、寄付金で済ませることが多く、顔が見えないとよく言われる。進出企業の幹部は、CSR活動を実施した場合は、現地社会に対し、積極的に情報発信することが望まれる。要するに、顔が見えるような形でCSR活動を行うことが奨励される。

 

2)   全体を見渡せる人材―総合力・バランス力のある人材

 

昔、ウジミナスの苦労話を聞いたことがあるが、その時、印象に残っていることは、

ブラジル人のエンジニアと日本人のエンジニアの違いであった。それによると、日本のエンジニアは専門分野に詳しく優秀であるが、ゼネラリストではない。一方ブラジル人のエンジニアは、専門分野については、それほど詳しくないが、ゼネラリストで、総合力を持っていたという。その相違が、時には争いの元になったとのことであった。筆者のメキシコ、チリ、イタリア、ブラジルでの駐在経験から見ても、理科系のエンジニア(インへニエロ)や文科系のリセンシアード(エコノミスト、弁護士)も、専門分野に加えて、広い教養の持ち主が多く、歴史、文学、芸術、音楽に詳しい人が多かった。

 

 ラテンアメリカの政治家、高級官僚、企業家および新聞記者の中には、米国や欧州の大学の修士号や博士号の取得者がますます増加している。最近では、修士号や博士号は取れなくても、専門以外に何か研究している人も増えつつある。一方、日本のサラリーマンは、学士レベルが多く、進出先の言語の習得者を優先派遣する企業が多くみられる。その結果、現地のエリートとなかなか太刀打ちできないことになる。日本人駐在員は、このような実情を把握しておく必要がある。

 

 さらに、今後、彼らと互角以上に対応するには、リベラル・アーツ力の強化、物事をバランスよく総合的に見る力をつけることが必要となる。ただ、これらの力は一朝一夕で得られるものではないので、徐々に力をつけていくよう努力すべきであろう。

 

3)提案力のある人材

 

レベルの高いラテンアメリカ人は、何か優れたアイデアを持つ人を評価し、尊敬する傾向にある。現地の投資企業として、進出国の開発・発展に役立つような発想を持ち、相手国の産業政策も踏まえ、連邦・州政府と折衝する能力・センス等々、多能な知能の持ち主が望まれる。一昔前、日本がブラジルに対して行った石川島造船所案件、ウジミナス製鉄所案件、セラード開発案件、カラジャス鉄鉱石案件、最近、注目されている南南協力案件のように、将来、ラテンアメリカの発展に役立つような案件を提案できるような人材の出現を期待したい。

 

4)自説をしっかり主張し、情報を発信できる人材

 

相手国政府の施策は適切である場合もあれば、適切でない場合もある。現地の企業で

あれば、不適切な場合は、声を大にして抗議し、変更を要求する。欧米系の外資企業でも同様である。しかし、進出日本企業は、彼らと比較するとおとなしいようである。マナウスのフリーゾーンで聞いた話だが、現地のブラジル企業は、大いに主張するが、日本企業は、黙っているか静かにしている場合が多いという。そのような場合、現地政府は、特に問題ないものと考え、現地企業に対し、日本企業や外資系企業は何も言ってこないということで、彼らのクレームを取り上げないことが結構あるという。ブラジルやラテンアメリカに長く駐在すると、現地の習慣に慣れすぎ、物事をすぐにあきらめがちになるが、簡単にあきらめないようにしたいものだ。現地企業とは積極的にコンタクトし、経営者としての共通の事項について、いつも意見交換する姿勢が望まれる。筆者の経験から、現地のロータリークラブやライオンズクラブに入会をお勧めする。クラブには、企業家、弁護士、会計士、医者等の会員がおり、友情を育むことができるし、筆者も仕事面で、彼らにずいぶん助けてもらったものだ。

 

また日本の重要性は、一昔前に比較して格段に大きくなっている。それに伴い、日本の政治、経済、産業、社会、企業経営等についての話を聞きたいと言う要望が現地政府、団体、企業や大学から出て来ることもあろう。そのような場合、積極的に引き受けるようにしたいものだ。またSNSによる発信にも関心を持った方がよい。

 

5)本社を説得できる人材

 

ブラジルのサンパウロ駐在時に、メインストリートであるパウリスタ通りに簡易交番が設置されるようになった。その結果、界隈での犯罪が減少したという。筆者は、誰がやっているのかが気になり、調査したところ、Associacao Paulista Viva(生き生きパウリスタ通り協会)というNPOが実施主体であることがわかった。会長と事務局長に早速、話を伺ったところ、簡易交番は協会が製作し、警官は当局から派遣してもらうという共同作業であることがわかった。簡易交番造作に関わる費用は、協会がパウリスタ通り界隈にあるブラジル企業や外資系企業から集めた協賛金から支払われていた。その際、会長から次のような質問を受けた。「日本のとある有力銀行に、寄付を求めているが、いつも本社と相談すると言って、その後何も言ってこない。日本企業は、CSR活動や治安の改善などに関心が無いのか?」 当該銀行に伝えると言って、何とかその場をしのいだが、内心は、大銀行であるにも拘らず、そんなことも決められないのかと寂しい思いをしたものだった。

 

 おそらく、本社と支店、本社と子会社との間には、案件ごとに本社決裁にするか現地決裁にするかの細かい規定があるものと考えられるが、可能な限り現地決裁で済むように仕向けて行く必要がある。日本企業の場合、他の欧米の企業に比して、本社決裁の数が多すぎるように思える。小さなことをいちいち本社に相談するようでは、現地社会や現地社員から企業やその経営者は軽く見られること請け合いである。進出企業の幹部も、本社に相談すると言うよりも、本社を説得するという強い姿勢を望みたいものだ。現地サイドで決定できる範囲を少しずつ広げていくようにしたい。

 

 ブラジルの現地社長だった人物が、帰国後、GM、フォルクスワーゲン、FIAT本社の社長になったという話はひとえに、激動する経営環境を苦労しながら、うまく乗り切ったからであろう。

 

6)周りを巻き込む情熱を持った人材

 

世の中が複雑になると、なかなか一人では解決できないことが増えてくる。ビジネス

においてもしかり、政府当局との交渉でもしかりである。例えば、進出先でのビジネス環境の改善やビジネスコストの軽減等について、政府と交渉する場合でも、1社であれば、官僚的な政府に太刀打ちできないであろう。そこで、現地に存在する日本商工会議所の仲間と協力して、WGのような組織を立ち上げ、調査研究する。場合によっては、日本政府を巻き込むことも考えられる。さらに他国の商工会議所も巻き込み、交渉できれば、相当強く相手国政府と当たることができよう。今後、ますます、情熱を持ち、粘り強く、人を巻き込む力が要求されるようになろう。人を巻き込むには、フレキシビリティが要求されることは言うまでもない。

 

7)ラテンアメリカが嫌いでない人材

 

ラテンアメリカ駐在に向いていない人物の3つの特徴をあげるとすれば、無口な人、

悲観主義者、ラテンアメリカ嫌いであろう。無口であれば、アミーゴを作るのが難しい。

ラテンアメリカ人は総じて楽観主義者が多いので、悲観主義者であれば、失望することが多く、楽しい駐在生活を送るのは難しいと言えよう。駐在生活を好循環に持っていくには楽観主義の方が有利である。何でも嫌いになれば、すべてが批判の対象となり、長所を見つけることができなくなる。とは言え、「ブラキチ」(ブラジルキチガイの略)やアル中(アルゼンチン中毒者)のように何でも大好きになる人材は、必ずしも適当な人材とは言えない。なぜなら周りの人々が、その人に対してバイアスをかけた見方をすること、また、慣れすぎると、ラテンアメリカはそういうものと何でも諦めがちになるからである。ラテンアメリカ人材は、シンパティコでかつ、ラテンアメリカを嫌いでない人が望ましい。なぜならラテンアメリカ嫌いでない人であれば、ラテンの長所、短所を見極め、バランスよく、客観的に物事を判断できるからである。さらに知的好奇心の旺盛な人物ならパーフェクトである。

 

8)中国人材をラテンアメリカ人材として活用する

 

筆者は、常々、中国に駐在し、したたかな中国人ビジネスマンと丁々発止ビジネスを

展開した経験のある日本人ビジネスマンをブラジルやラテンアメリカに派遣すべきと提案している。中国とラテンアメリカ、とりわけブラジルは、当然ながら歴史や慣習も異なるが、ことビジネスともなると、よく似た点が多々ある。例えば、①経済的というよりむしろ政治的に物事を考える、②戦略的発想をする、③万事大きいことが大好き、④小さいことは後回しにして大きいことで合意する、⑤法治的より人知的である、⑥変化に強く即興力がある、⑦個人個人が強い、⑧誇り高く、メンツを非常に重んじる、⑨自分たちを世界の中心だと考えている等々である。したがって、中国経験者がブラジル駐在ともなれば、即戦力として活躍できるし、ほとんど違和感なく、スムースに現地社会やビジネス環境に溶け込めるものと思われる。さらに、中国のラテンアメリカへのここ数年の進出は恐るべきものがあるが、ラテンアメリカ人は中国人とのビジネスの方法に慣れておらず、どうしていいのかわからず戸惑っている。したがって、彼らは、ラテンアメリカの政財界人に、中国ビジネスに対し適切なアドバイスを与えることも可能である。

 

9)駐在は単身ではなく、家族同伴で

 

ラテンアメリカ諸国の駐在、とりわけ治安の悪い国となると、家族同伴ではなく、単

身赴任が結構多いようである。その理由は、治安情勢に加えて、子供の教育事情、両親の介護、同伴者の外国嫌い等が考えられるが、欧米人の常識感覚からすると、家族が離れ離れで生活するのはとても信じられないことである。ブラジルやメキシコで長期滞在型のホテルやアパートに単身赴任をし、土日ともなるとゴルフに精を出している日本人駐在員をみると、少し悲しくなる。奥様方のネットワーク、子供たちのネットワーク等駐在中の内助の功も大きいので、可能な限り、家族同伴で赴任したいものである。派遣元の企業、団体、地方庁、中央官庁も夫婦同伴での赴任を積極的に推奨すべきであろう。

 

10)SNSAIIoTICTにも強い人材、少なくとも弱くない人材

  

 欧米の調査をみると、最もビジネスで有効な手段を関係者にアンケートをすると、ドイツは、1位が会社のウエブサイト、2位が見本市への参加となっている。(2016年、ドイツ見本市連盟の調査)、同じく米国では、将来最も伸びる分野として、1位がSocial Media Outlet、第3位が、企業のウエブサイトとなっている。(米国の最大のIAEE、国際展示会イベント協会の2015年の調査) 業種によって有効な手段は異なるが、SNSの重要性はますます大きくなっている。SNSは他人にアピールする場合でも、情報を入手する場合にでも必要である。 

日本および世界中でAI(人工知能)についての活用や普及は著しいものがある。イノベーションの推進に関連し、デジタル化やデータ流通も加速化される。AIICTの普及はまことに目の回るスピードで動いている。追いかけるだけで大変だが、製造業の世界展開がどのように進んでいくのか、その中にあってラテンアメリカの位置づけ等について、真剣に考えられる人材が求められる。ラテンアメリカの中には、ブラジルのように、選挙制度でデジタル化が大いに進んでいる国もある。ラテンアメリカ諸国の大統領の権限が総じて強大なので、急速に電子政府の方向に向かうものと思われる。今後、進出企業のトップや駐在員は、SNSAIIoTICTにも強くなることが必須となるものと見られる。

 

11)そして、追加の提案 日系人を理解し、一緒に働ける人材

 

ブラジルやペルー等南米には、日系人が多い。ブラジルには、190万人の日系人がいる。日本から派遣される進出企業の役員は、往々にして、姿形が日本人と同じで日本語を知っていれば、日本人と思いがちであるが、紛れもないブラジル人と考えるべきである。もちろん、人によっては、日本人のような日系ブラジル人もいるし、ブラジル人のような日本人もいることは当然である。日本企業にとって、日系人はポルトガル語も日本語もわかる貴重な存在である。日本政府も未来の日系社会を担う人材育成のため、様々な日系社会の人材教育プログラムを展開している。しかし、彼らはブラジル人であり、ブラジル、現地社会、国民性、制度上の問題や宗教等についての不満や悪口を日本人から言われれば、当然ながら不愉快に思うだろう。日本人役員に同行して、政府関係者との通訳をする場合でも、現地政府への不満、抗議等政府の気分を害するようなことは、正しく通訳しないこともあり得る。このようなことが度重なると、日本人役員は対外折衝をせず、すべて日系人に任せる場合もあるだろう。赴任前の研修では、日系人の考え方や行動様式についても、事前に学ぶ必要があるし、赴任後は、日系人に対し、同様に日本人の考え方や行動様式を懇切丁寧に伝えることが望まれる。日本の遺産である日系人に対して敬意を払い、大切に接するという態度が必要である。

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「赴任前の人材育成プログラムの充実を」

 

上記のような人材を見つけるのは至難の業であるし、上記の11の条件を備えている

人材は皆無と言われそうである。当然ながら、これらの人材を送り出すには、事前に周到な準備が必要となって来る。数か月前に決定し、すぐに派遣するようでは、なかなかうまくいかない。今回は、ラテンアメリカを想定して執筆したが、内容的に見ると、全世界のどこででも通用する人材であることがわかる。ラテンアメリカ人材のみならず、中国人材、アジア人材、欧米人材、アフリカ人材等にも活用できよう。企業の海外人材の育成につき、世界のビジネス環境の変化を鑑み、どのような人材が現場で必要とされるのか、それら人材を育てるにはどうすればいいのかを考える必要があろう。

 

まず最初に、中央官庁、経団連、日本商工会議所、在外企業協会、ラテンアメリカ協会等地域別の有力団体等の関係機関の英知を集め、派遣地域別に、どのような人材が必要とされ、その人材像に従って、研修方法、内容についての広範囲のプログラムを作成することを提案したい。その中には、原点に立ち返り、事業の目的・意義を考え、具体的な目標の立て方、経営方法、法務、労務、税制、人間関係、CSRセンス、コンプライアンス、治安対策、コミュニケーションの取り方等々企業経営にとって必須の事項のみならず、相手国の言語、歴史、社会、文化、国民性といったリベラル・アーツ的な事項も含まれるべきであろう。さらに駐在国の人々に日本を紹介する機会が多いので、日本の歴史、社会、政治、経済、教育等についての基本的知識も吸収していきたいものだ。

 

第2の提案は、赴任前の研修のみならず、海外要員を予め選抜し、彼らに対する不断の研修を受けさせるようにすることである。それによって、上記11の分野をカバーする人材の育成が可能となろう。

 

第3の提案は、企業内の研修も有意義ではあるが、人材研修を専門とする外部の団体や企業に委託し、従業員に研修を受けさせるようなメカニズムを構築するのはいかがであろうか? 企業内の研修は、自社に関わる知識・経験を中心とし、その他の分野は外部の組織に任せるのである。この方法を取るといくつかのメリットが考えられる。まず、経費が安くつくこと、第2に、他組織の人材と友好関係の構築が可能となる、第3に、日本在住の外国人ビジネスマン、日本政府・政府機関関係者、経済団体、大学等多方面の参加者と広く意見交換ができ、お互いに刺激を受けることが可能となる等々である。

 

前述したように、これは筆者の個人的な試論である。多くの方々のお考え、ご意見をいただければ幸いである。

連載エッセイ62 ≪ラテンアメリカの情報を日本語で調べるには≫ 続き

執筆者:桜井 悌司氏(ラテンアメリカ協会常務理事)

14.ブラジル日本商工会議所(サンパウロ)

1940年設立、現在会員数、350社。ブラジルには、サンパウロに加え、マナウス、ベレン、クリチバ、リオ・デ・ジャネイロ、ポルトアレグレの5都市に別途日本商工会議所が存在する。

 

「主要情報」

1)デイリー経済情報  ブラジルのカレントな経済・産業情報を毎日掲載。

2)会議所関連ニュース

3)会議所の活動ほか

  業種別部会長シンポジウム 毎年2回、夏冬に開催され、各業種別の部会が、過去1年・半年の動向を発表する。

  プレゼン資料(過去の興味あるプレゼンが全て収録されている)、近隣のアルゼンチン、チリ、ペルー、コロンビアのプレゼンも入っている。

  会員企業情報  ブラジルビジネス

  業界情報、貿易、法制度、投資、主要経済指標  非常に有意義な情報。

4)安全対策情報

大使館、総領事館の情報を中心としたサンパウロの安全情報。

6)ブラジル生活情報⇒一般情報⇒生活情報(うんちく、ことわざ、笑い話・ピアー

ダ200以上、アドバイス等)  笑い話等はビジネストークに役立つ。  


15.メキシコ日本商工会議所

 1964年に設立され、現在の会員数は490社。メキシコ・シテイに本部、バヒオ支局とケレタロ分室がある。

 

ジェトロや金融機関等の情報を頻繁に提供する経済・貿易・産業・金融情報をカバーするニュース欄の他、大使館・総領事館からのメキシコ生活情報、着任研修、安全情報がある。

 

16.その他在外の日本商工会議所            

 在外にある2国間商工会議所で、日本語のホームページがある会議所は、下記の通り。

1)日智商工会議所 1980年設立。最新情報、会報の発行、イベント情報、チリ生活情報、「ようこそチリへ」の発行

2)在亜日本商工会議所 1949年設立。会議所関連の情報等

3)パラグアイ日本商工会議所 1975年設立。パラグアイ概況、会議所の活動等


17.ラテンアメリカ学会

 学会のホームページを見ると、学会のイベントのお知らせが大部分であるが、年1回発行される「ラテンアメリカ研究年報」には、論文や書評などが掲載されている。


18.ラテンアメリカ政経学会

 学会のホームページを見ると、学会のイベントのお知らせが大部分であるが、年1回発行される学会誌「ラテンアメリカ論集」には、論文や書評などが掲載されている。


19.日本の大学のラテンアメリカ研究所等

日本の大学の中にもラテンアメリカやイベロアメリカという名称を持つ大学がある。以下リストアップする。研究所によっては積極的にセミナー・講演会を行っている。

1)東京大学ラテンアメリカ研究センター

2)神戸大学経済経営研究所ラテンアメリカ政治経済部会

3)上智大学イベロアメリカ研究所

4)立教大学ラテンアメリカ研究所

5)早稲田大学ラテンアメリカ研究所

6)明治大学「ラテンアメリカ・プロジェクト」

7)南山大学ラテンアメリカ研究センター

8)京都外国語大学ラテンアメリカ研究所

9)関西外国語大学イベロアメリカ研究センター 等


20.銀行・法律・会計事務所によるセミナー・コンサルテイング

 東京等に存在する内外の法律事務所・会計事務所もラテンアメリカとのビジネスに関わるセミナーを開催している。2017年以降に、セミナー等を組織した企業を下記に紹介する。

1)三菱東京UFG銀行

2)三井住友銀行

3)みずほ銀行

4)デロイトトーマツ

5)KPMG

6)あずさ監査法人

7)TCG(東京)コンサルテイングファーム)

8)西村あさひ法律事務所

9)長島・大野・常松法律事務所

10) 森・濱田・松本法律事務所

11) ベーカー&マッケンジー法律事務所  等々


21.在京大使館のホームページ、広報活動・セミナーの開催等

 在京の大使館でも独自の活動を展開しているので一部紹介する。

1)メキシコ大使館  大使館のホームページは、スペイン語、英語、日本語の3か国語

である。大使館内に、「エスパシオ・メヒカーノ」というスペースがあり、そこで数

多くのイベントを開催している。2018年のプレス発表の実績で見ると、テキーラ

等メキシコ産品紹介セミナー、6回、文化講演会、5回(アミーゴ会の講演を含

む)、展示会、3回、記念コンサート、2回、報告会・発表会、4回、レセプショ

ン、1回、投資セミナー、1回となっている。なお、メキシコ観光局東京事務所も日

本語のホームページを持っており、観光情報の他、動画、写真も充実している。

2)ブラジル大使館  大使館のホームページからは、ブラジル関連の情報はそれほど入

手できるわけではないが、イベントコーナーを見ると、ブラジル大使館の地下の展示

場・セミナー・ルームで多くのイベントが行われていることがわかる。2018年の

実績で見ると、文化トーク・ワークショップ、13回、各種展示会、8回、セミナ

ー・意見交換会、4回、ブラジル映画祭、1回と積極的である。

3)ペルー大使館  ペルー大使館は、文化活動に力を入れており、展示会等を行ってい

る。ホームページでは、ニュースの他、外交、経済貿易面での日本との関係について

紹介している。なお、大使館とは別に、ペルー政府観光庁による観光情報は充実して

いる。

4)アルゼンチン大使館  2018年が日亜外交樹立120周年の記念の年であったため、数多くのイベントが実施された。ホームページにはニュースの他、文化、食文化、観光の一般情報、アルゼンチンの概要等が見られる。

5)チリ大使館、コロンビア大使館  日本語によるホームページは見当たらない。

 

22)セルバンテス文化センター東京

 Instituto Cervantesは、1991年にスペイン政府によって設立された。その目的は、スペイン語の振興と教育、スペイン及びスペイン語圏の文化の普及である。全世界に70以上の支部を持っているが、東京は最大規模の一つである。セルバンテス文化センター東京は、地上7階、地下3階の立派なビルで、200人収容のオーデイトリアム、2つの展示場、フェデリコ・ガルシア・ロルカ図書館、多数の教室がある。スペイン語の検定試験DELEの運営、スペイン語教室の実施の他、スペイン及びスペイン語圏の文化イベント、例えば、美術関連展示会、文化関連セミナー・ワークショップ、コンサート等極めて積極的に活動を行っている。スペインが主であるが、イスパノアメリカの諸国大使館もセンターをうまく活用している。ラテンアメリカの文化イベントに関心のある人は、センターにコンタクトし、メールリストに加えてもらうことをお勧めする。


連載エッセイ62 ≪ラテンアメリカの情報を日本語で調べるには≫ 

執筆者:桜井 悌司氏(ラテンアメリカ協会常務理事)

 

大学で7年間教鞭を採り、ラテンアメリカ事情につき講義したが、最近の学生は、スマートフォンやアイパッドなどで世界の情報が容易に検索できるようになった結果、多くの情報の入手が可能となっている。インターネットで調べる場合、キーワードで調べる方法、関係組織から調べる方法等があるが、学生やビジネスマンは、キーワード検索を使って調べるケースが多い。情報を入手する場合、誰が、どの組織がどういう情報を持っているかを知っていれば、極めて迅速かつ的確に情報が入手できる。そこで、本稿では、ラテンアメリカ関連の主要機関のホームページを訪れることにより、各組織がどのような情報を持っているかをやさしく説明する。便宜上ブラジルとメキシコを中心に情報入手の方法につき紹介するが、他のラテンアメリカ諸国の調査にも役立つものと考える。なお、本稿は、桜井個人の判断・考えに基づくもので、協会の意見を反映したものではない。

 

1.   外務省

外務省は、何といっても世界に多数の大使館、総領事館を持っており、世界のほぼすべての国々の政治・経済・外交事情をカバーしている。ブラジルとメキシコの例で説明するが、同様の方法で、他のラテンアメリカでも調べることができる。外務省のホームページでは、ラテンアメリカ・カリブ諸国33カ国の情報が入手できることが大きな強みである。

 

「主要情報」

1)国・地域情報⇒地域地図⇒中南米クリック⇒ブラジル・クリック

ブラジル

  基礎データ(一般情報、政治体制・内政、外交・国防、経済、経済協力、弐国間関係) それぞれの国の基本情報が入手できる。

  トピックス、アーカイブ

  リンク(駐日ブラジル大使館、日本ブラジル中央協会、日伯協会)

2)海外渡航・滞在

  海外安全対策⇒外務省海外安全ホームページ⇒国・地域別の海外安全情報⇒ブラジル・クリック  海外に出かける時、駐在する時には必見の情報。

  海外安全対策⇒世界の医療事情⇒国・地域⇒ブラジル・クリック 渡航時、駐在時には必見。

3)入手するとお得な情報

  「ゴルゴ13の中堅・中小企業の海外安全対策マニュアル」本  ゴルゴがやさしく治安情報を解説する。非常に面白い。

  「日本と中南米」パンフレット  日本と中南米全体の関係を優しく紹介したブロシュアー。常識としての情報。


2.  
在ブラジル日本国大使館

「主要情報」

1)二国間関係 2国間の政治・経済・文化関係が理解できる。

2)外交政策  日本政府の対ブラジル外交政策の基本がわかる。

3)広報文化  日本政府がブラジルでどのような文化活動をしているか。

4)ブラジル情報(毎月)政治情勢。外政、トピックス

ブラジルフォローワ―にとって必読の情報。カレントな情報を入手できる。

5)安全情報 等々


3.  
在サンパウロ日本国総領事館〈ブラジル〉

「主要情報」

1)安全対策情報(毎月)

「サンパウロにおける安全の手引き」26ページ

「邦人被害事例集」22ページ

治安に関心のある方にとって貴重な情報が満載。

2)サンパウロ案内

「サンパウロ州概要」

「サンパウロ市内」(観光名所、買い物、治安、日系団体、主要アドレス、レス

トラン)サンパウロへの出張者や駐在者にとってサンパウロを知る上で大変便

利な情報である。

3)サンパウロ総領事館に加え、クリチバ、マナウス、リオ・デ・ジャネイロ、レシ

フェに総領事館があり、ベレンとポルトアレグレに良治事務所がある。


4.  
在メキシコ日本大使館 

1)二国間関係 2国間の政治・経済・文化関係が理解できる。

2)大使館関連ニュース

3)広報・文化・イベント情報

4)外交政策

5)メキシコ経済情報

6)安全情報

7)教育情報 等々


5.  
在レオン日本国総領事館(メキシコ)

1)新着情報 在外公館トピックス

2)安全情報等

3)グアナフアト州及びレオン市案内


6.  
その他日本大使館 

その他在アルゼンチン、在コロンビア、在チリ、在ペルー等すべての日本大使館情報も同様に調べることができる。


7.  
日本貿易振興機構(ジェトロ)

ジェトロは、当初1958年に設立され、現在は、独立行政法人である。貿易・投資の促進を目的とする機関であり、世界55カ国に77の事務所を配置し、世界の政治・経済・産業・貿易等の情報収集を行っている。ラテンアメリカには、メキシコ、コロンビア、ベネズエラ、ペルー、チリ、アルゼンチン、ブラジルに事務所を構えている。ホームページ上からは、主として、それら7か国の情報が入手可能である。

 

「主要情報」ブラジルの例で説明する。

1)国・地域別にみる⇒中南米⇒国別⇒ブラジル・クリック

  ブラジル基本情報(概況、政治動向、経済動向、祝祭日、資料情報源、年次レポート、統計、各国地域データ比較、投資コスト比較)

経済・産業・貿易・制度情報は大いに役立つ。各国情報比較や投資コスト比較は、他国と一気に比較できるので、一度活用をお勧めする。

  ニュース・レポート カレントなニュース

  ビジネスの制度・手続き   貿易制度、投資制度、税制度等を詳しく説明するコーナー。

  その他、セミナー・展示会、ジェトロの支援サービス、見本市/展示会・ビジネス案件情報。

  輸出、海外進出、外国企業誘致といった目的別にも調査できる。また産業別の情報も入手できる。

2)入手するとお得な情報

「サンパウロスタイル」(2017年2月発行)60ページ、サンパウロで生活していく上で、役に立つ生活情報を写真で紹介する。他の中南米の都市のスタイル集も入手できる。なおこのスタイル特集で入手できるものは、サンパウロ以外に、メキシコシテイ、ブエノスアイレス、ボゴタ、サンテイアゴ、リマ、リオ・デ・ジャネイロの合計7都市である。

3)ジェトロは、ラテンアメリカから訪日する政府要人等を講師とするセミナーを2

017年には、17回開催している。


8.  
アジア経済研究所(IDE)

ジェトロ/アジア経済研究所である。研究所は、アジア、中近東、アフリカ、ラテンアメリカ等の発展途上国の開発動向を研究する組織である。ラテンアメリカについても、積極的に情報収集・調査研究・情報発信を行っている。

 

1)ラテンアメリカレポート(年2回発行)アジ研ワールドトレンドの発行

2)ラテンアメリカ関係の研究者7名

3)毎年研究会が設置され、成果を研究所として書籍の形で発行する。2018年の研究会は、①ラテンアメリカ政治・経済・社会、②国際金融循環文責の基礎研究、③溶解する国家 ベネズエラ:21世紀の社会主義と民主主義、④新興国の新しい労働運動、⑤次世代の食糧供給の担い手:ラテンアメリカの農業経営体。

4)その他Discussion Papersも多数発行されている。

5)アジ研でも独自にラテンアメリカ関連のセミナーを行っている。


9.  
国際協力機構(JICA

JICAは1974年に設立された。現在は、独立行政法人で、日本政府の政府開発援助(ODA)を実践する強力な組織である。発展途上国を中心に全世界に93か所の事務所・支所事務所を配置する組織。北米・中南米には、23か所を有する。事務所所在国は、メキシコ、グアテマラ、エル・サルバドル、ニカラグア、ホンジュラス、パナマ、ドミニカ共和国、キューバ、セント・ルシァ、ブラジル、エクアドル、ボリビア、ペルー、パラグアイ、アルゼンチンの合計15カ国、支所の所在国は、コスタリカ、ハイチ、ベリーズ、ジャマイカ、ベネズエラ、コロンビア、ウルグアイ、チリの8カ国である。

 

「主要情報」

1)各国における取り組み⇒中南米⇒ブラジル・クリック

国別援助方針(ブラジル)外務省

国別データブック(ブラジル)外務省

中南米地域「いちおし!」情報 毎月

国別にどのような経済・技術協力を行っているかといった情報を入手できる。

2)各国における取組⇒事業別協力実績(国、年度、分野別)

3)入手するとお得な情報

各国における取り組み⇒世界の様子(国別生活情報)⇒北米・中南米⇒ブラジル・クリック

「サンパウロ地域生活情報」47ページ

「ブラジリア地域生活情報」37ページ

    国別の旅行ガイドブックが無い都市についての詳細な情報が入手できる。こ

の生活情報は、長期専門家用に書かれたものであるが、JICAの事務所のある

国では、同様の情報が入手できる。


10.         
国際協力銀行(Japan Bank of International Cooeration, JBIC

JBICは昔の日本輸出入銀行で、1950年に設立された。現在は、株式会社であるが、政府の貿易・投資・開発に関わる政府の銀行である。世界に16か所、中南米には、メキシコ、ブエノスアイレス、リオに事務所を構える。

 

1)JBIについて⇒海外事務所⇒ブラジル・メキシコ・アルゼンチンクリック

各事務所が担当する各種案件が見られる。

2)毎年発表する「海外投資アンケート調査」は投資先国を選定する上で役に立つ資料で

ある。

3)寄稿レポートコーナーでは、2018年の場合、ベネズエラ情報が11本、その他、メキシコ、アルゼンチンレポートがある。メキシコが投資環境レポートに取り上げられている。

4)JBICの肝いりで1991年に設立された一般社団法人海外投融資情報財団(JOI)も国別投資環境として、アルゼンチン、エクアドル、コロンビア、チリ、パナマ、ブラジル、ベネズエラ、ペルー、メキシコを取り上げている。2018年には、メキシコとブラジルを取り上げた2回のセミナーを行った。その他公開レポートとして年1~2本程度、ラテンアメリカ関連のレポートも発表している。


10)国際交流基金(
Japan Foundation

  基金は、1972年に設立された。日本文化や日本語の普及を目的とする独立行政法人である。全世界に25か所に事務所を構える。ラテンアメリカには、メキシコ・シテイとサンパウロに事務所がある。

 

日本語教育情報 ラテンアメリカ・カリブ諸国22カ国・地域における国別の日本語教育情報を入手できる。内容は、2015年度日本語教育機関調査結果、日本語教育実施の状況、教育制度と外国語教育等である。外国語の中での日本語の人気という項目もある。

また、スペイン語圏、ポルトガル語圏の小説等書籍で日本語に翻訳されたもの、その反対に日本の書籍で、スペイン語、ポルトガル語に翻訳された書籍のリストも入手できる。

11.          (一社)ラテンアメリカ協会

ラテンアメリカ協会は、日本とラテンアメリカ・カリブ諸国との政治・経

済を中心に、相互理解の深化と関係強化をめざす組織である。協会のラテンアメリカ・カリブ情報は、会員限定が多いが、極めて充実している。

 

「主要情報」

1)協会主催の講演会セミナーの案内、お知らせ、他組織によるイベントの案内。

2)情報の内容はラテンアメリカ・カリブ全般を網羅している。各種情報には、ラテンアメリカ・データ集、協会の付属機関であるラテンアメリカ・カリブ研究所によるレポート(長年国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会に勤務した桑山幹夫協会常務理事、桜井悌司常務理事のレポートが多い)、外務省情報、国別情報、新着経済情報が含まれる。

3)オッペンハイマー・レポート 米国のマイアミ・ヘラルド・トリビューンのラテンアメリカの政経問題の権威で著名記者であるオッペンハイマー氏の執筆記事シリーズ。

4)季刊ラテンアメリカ時報は、ラテンアメリカの政治・経済等をカバーするレベルの高い情報誌である。

5)ラテンアメリカ関連の新刊図書、映画、音楽会、文化講演会などのイベント情報が満載。

6)2019年1月から寄稿コーナーが設置され、会員等からのレポート、エッセイ等も読むことができる。

7)協会では年15~20回、ラテンアメリカ関連のセミナー等を行っている。


12.         
(一社)日本ブラジル中央協会

日本ブラジル中央協会は日本で最大の日本―ブラジルの2国間の政治・経済関係の推進をめざす組織である。ホームページも極めて充実しており、ブラジルの調査に大いに役立つ。

 

「主要情報」

1)協会イベント

2)ブラジル経済情報

  為替・経済指数(ブラジル日本商工会議所、ブラジル三菱UFJ銀行マーケット・レート) 最新の金融、経済統計が入手できる。

  マーケット・レポート(日興アセットマネージメント、三井住友アセットマネージメント、みずほ総合研究所、三菱東京UFJ銀行、ジェトロ、大和住銀投信投資) 上記①の情報に加え、最新の経済情報の入手が可能。

  ブラジル特報(隔月刊) 24ページ、毎号テーマを設定し特集号を発行。

最新号は、会員限定。その他会員限定情報は、在ブラジリアの日本大使館からの政治経済情報。

  連載エッセイ「ブラジルを理解するために」現在までに、143まで掲載

  ブラジル関係の講演会、音楽、各種イベントの情報

  3)協会では年15~20回、ブラジル関連のセミナー等を行っている。


12.メキシコ・アミーゴ会

任意団体ではあるが、ホームページはなかなか充実している。内容は、メキシコ何でも相談、企業進出・貿易、メキシコ商品リンク集、メキシコの観光、姉妹都市、メキシコと日本の歴史、メキシコ原産の植物、メキシコ関連書籍、メキシコ留学・語学研修等である。


13.その他2国間友好親善団体

 上記3団体以外に、2国間友好団体でホームページを持っている団体は、下記の通り。

グアテマラ・マヤ文化協会、日本ニカラグア友好協会、日本パナマ友好協会、日本キューバ友好協会、日本ドミニカ共和国友好協会、日本コロンビア友好協会、日本ペルー協会、日本チリ―協会、日本パラグアイ協会、日本ウルグアイ協会、日本アルゼンチン協会、日本ベネズエラ協会、日伯協会等。


 

連載エッセイ61 ≪ ブラジルワインを日本やアジアに輸出するには≫続き

5位
チリ
2.0
(5.7)
13位
香港
567.2
(1.6)
6位
米国
1.
(4.2)
14位
シンガポール
476.7
(1.3)
7位
ニュージーランド
1.2
(3.4)
15位
中国
436.1
(1.2)
8位
ドイツ
1.1
(3.2)
 
 
 
出所:世界ワイン協会(OIV)
 
 次に、ブラジルのワインとスプマンテの2018年上半期の輸出状況をみてみよう。IBRAVIN〈ブラジルワイン院〉と APEX-BRASILの発表によると、2018年上半期のワインとスプマンテの輸出量と輸出額は下記の表3の通りである。いずれも、前年同期比で大きく伸びていることが理解できる。とりわけスプマンテの輸出量の伸びは注目に値する。現在42の企業が29カ国に輸出している。まだまだ輸出量・額は少ないが、潜在能力は十分あると考えられる。国別でみると、表4の通りであるが、注目すべきは、ワイン大国の米国やチリにも輸出していることである。日本はワインの輸出先で第5位となっている。
 
 EUとのFTAが締結された結果、2019年からワインの関税が0%となる。チリからのワインの関税も同様である。これらのことは、ブラジルのワイン輸出に不利に働くことになる。メルコスルとのFTAの交渉を早急に開始して欲しいものだ。
 
表3 ブラジルワインとスプマンテの2018年上半期の輸出量・額
種類
輸出量リットル
伸び率%
輸出額ドルFOB
伸び率%
ワイン
1,450,301
37.84
3,013,070
33.60
スプマンテ
142,836
61.21
631,671
29.23
合計
1,593,137
39.28
3,644,741
32.87
出所:MDIC(開発商工省)
 
ブラジルワインとスプマンテの国別輸出ランキング(2018年上半期)
 
ワイン+スプマンテ合計
ワイン
スプマンテ
1位
パラグアイ
パラグアイ
チリ
2位
米国
米国
シンガポール
3位
チリ
コロンビア
ポーランド
4位
英国
英国
米国
5位
シンガポール
日本
中国
出所:MDIC(開発商工省)
 
以下、私の独断と偏見で、ブラジルワインが日本市場に受け入れられるにはどうすればいいかを7つの提言をしたい。なお本稿の意見は、全く個人の意見である。
 
作戦1 ブラジル人自体が、ブラジルワインの良さを認識し、自信を持って
人に勧めるようにすること
 
ブラジルでレストランに行くと、ブラジル人はまずブラジルのワインを注文しないで、チリやアルゼンチン等のワインをオーダーする。それはすなわち、ブラジル人が自国のワインを信頼していないことを意味する。チリワインの調査で分かったことは、ブラジルはチリから膨大な量のボトルワインを輸入していることである。2018年の統計によれば、ブラジルはチリから50,557,837キロリットル、価格にして、145,273,695ドルを輸入している。同じ時期の日本のチリワインの輸入は、56,733,542キロリットル、159,588,985ドルであったが、日本とほぼ変わり
ないくらいの輸入である。ブラジル人が、ブラジルワインを信頼するようになるのが第一の課題であり、絶対的に必要な条件である。そのためには、ブラジル国内で、ブラジルワインの消費キャンペーンなどを組織し、消費者に対する教育を行うことが望まれる。ブラジル人が信頼しないワインを外国人に飲んでもらおうと考えるのはやや不自然である。
 
作戦2 ブラジルにも良質のワインが生産されていることを日本人消費者に知
らせること
 
 チリワインも、私が駐在していた80年代には、バルクワインが主流で、何とかしてボトルワインの輸出を図りたいと苦慮していた。今から30数年前の話である。それが、官民挙げての努力の結果、世界や日本市場に確固とした地位を築いたのである。日本市場におけるブラジルワインの存在は、30年前のチリワインの存在とよく似ている。
 
ブラジルのワインもブラジル駐在経験者であれば、ある程度知識を持っていようが、日本の一般大衆からみると、「ブラジルでワインを生産しているの?」ということになる。ブラジルにも大きなワイナリーが存在し、おいしいワインを生産している。ブラジル南部には、ワインメーカーのアウローラ社、サルトン社、ミオロ社、シヌエロ社等である。また北部のサンフランシスコ・バレーでもワインができる。スプマンテもおいしい。
 
 しかし、日本人や中国人、アジア人は、ブラジル産ワインについての知識や認識がほとんど無いと言っても言い過ぎではない。ブラジルと言えば、リオのビーチやアマゾンを思い浮かべる。熱帯地区のイメージである。ワインと熱帯のイメージはうまく結びつかない。また前述のようにブラジルが世界第14位のワイン生産国であることも知らない。ブラジルは暑い地域だけではなくブドウの栽培に適した気候や環境に恵まれた地域がたくさんあることをもっとアピールすべきである。また暑い気候の中で、冷たいスプマンテを飲むイメージも定着させたい。このような例だけでもわかるように、ブラジルワインの普及はゼロからの出発と考えたほうが良い。ある特定国に新規商品の売り込みを図ろうとする場合、相当なエネルギーを必要とする。ワインの場合、ブラジルワインが既存の輸出国のワインとどこが違うのか、味、品質、価格、原産地表示等々を1から紹介することになる。相当の忍耐力が要求される。
 
作戦3 売り込み先のターゲットを絞る
 
 ブラジルはワインの売り込みにかけては、後発グループとなるので、すでに進出しているワイン輸出大国の動向を調査し、輸出対象国の選定、調査、どのような消費者を対象とするのか、それによってワインの価格帯等を詳細に調査する必要がある。またブラジルワインの特徴やアイデンティティは何かも追及することが要求される。ブラジルのワイナリーはおそらくチリのようにフレキシブルではないので、安価なワインの輸出は難しいかもしれない。そこで、中高級ワインで攻めるのが適当と言えよう。しかし、中高級ワインは激戦区である。ブラジル人輸出業者は往々にして、日本市場がダメでも欧米市場があると考えがちだが、日本市場を攻略すれば、後ろに広大なアジア市場が控えていると考えたほうが良い。
 
作戦4 官民挙げての販売促進活動を組織的、継続的に行う
    展示会への参加、ワインミッションの派遣 ビジネス・マッチングの
    開催、日本人のワイン関係ジャーナリスト・有名人の招へい、ブラジ
    ルワイン紹介の書籍の発行、映像プログラムの作成、ブラジルグルメ
とワインの紹介
 
チリワインが日本市場で成功したのは、チリ政府の輸出振興機関であるプロチレの貢献が大きい。プロチレがチリワイン協会やワイナリーと協力して、組織的、計画的、継続的に日本市場にアプローチをかけたことを忘れるべきではない。その努力が、対中国市場への攻略にも役立ったに違いない。中国はチリワインの最大の輸出国である。ブラジルは食材が豊富なので、ワインはそれら食材の1つ、それもそれほど重要ではない品目に入るだろう。それゆえに、前述のように、ブラジルにも美味しいワインが存在するというイメージ作戦から開始し、きめ細かいマーケテイングが必要なのである。また見本市に参加した後には、しっかりとフォローアップを行い、次回の展示会に繋げるという努力が必要である。
ブラジルは、日本最大の国際食品・飲料見本市にもブラジルの輸出振興機関であるAPEX-BRASILが出展し、ワイナリーも参加している。2001年以降、19回の開催のうち、18回の参加で、支援対象企業は、434社に上っている。ブラジルは、独自のパビリオンに加え、ジェトロのODAプログラムにも、2001年、2002年、2005年、2006年の4か年で、合計28社が出展している。主要な出展物は、コーヒー、ビール、カシャサ、ワイン、グアラナー、オレンジジュース、アサイー、チーズ、チーズパン、冷凍農産品、ビスケット、冷凍肉、胡椒、ボンボン、キャンデー、蜂蜜、プロポリス等である。APEXや在日ブラジル大使館は、日本市場攻略の積極的に活動しているが、今までの経験を一度総括・分析し、今後の活動展開の検討を行うことが必要である。
 
まず最初にやるべきことは、在京ブラジル大使館が、日本のブラジルワインのすべての輸入代理店を集め、どうすれば、ブラジルワインやブラジルの飲料の対日売り込みを図るかにつき、定期的に意見交換を行い、議論結果を本省やAPEX-BRASILにも連絡し、極力実行に移すことである。そして、上記にあげたような手法を駆使して、プロモーション活動を図るようにすべきである。
 
作戦5 日本のワインの有力輸入代理店や主要ワイナリーをブラジルに招聘
し、ブラジルのぶどうの栽培環境やワインの生産環境を視察してもら
うこと
 
 ワイン・ジャーナリストや評論家にブラジルのワイン産業を視察してもらうのは有意義なことであるが、それよりもっと重要なことは、実際にワインを輸入する代理店やワイナリーの関係者をブラジルに招聘し、実際に見てもらうことである。何故ならラテンアメリカ、とりわけブラジルは実際に現場を見ないとわからない国であるからだ。日本の洋酒輸入組合や日本輸入ワイン協会と協力し、メンバー企業をWines of BrazilAPEX-BRASILが招待するという方法である。招待の条件は、お互いに話し合って合意すれば良い。
 
作戦6 優秀な外資系ワイナリーを誘致する
 
 チリワインの成功の秘訣の1つは、フランス、スペイン、イタリア等の外資系の有料ワイナリーがチリに投資していることがあげられる。外資は、高度な醸造技術をもたらすだけではなく、世界市場でのマーケテイングにも長けている。ブラジルでワイナリーを始めたのは、イタリア系やドイツ系等の移民であるが、ブラジル政府としては、新しい技術を持った外資のワイナリーの誘致ももっと積極的になるべきであろう。
 
作戦7 日本のブラジルレストランでは、ブラジルワインを積極的に提供する
 
 ここ数年、代表的なブラジルの料理であるシュラスコをメインとするシュラスカリアが東京を中心に急激に増加している。2000年初めには、イタリア料理がブームになり、イタリアワインの輸入が伸びた時期が思い出される。 このような動きはブラジルワインにとっては追い風となる。シュラスカリアでは、ブラジルワインを提供するレストランもあるが、そうではないところもある。レストランが自分たちの裁量でどこの国のワインを採用するかを決定するのは当然であるが、やはり、ブラジルレストランであるからには、カイピリーニャに加えて、ブラジルワインをワインリストに加えてもらいたい。在京のブラジル大使館等が率先して、その説得に当たることが望まれる。レストランのハウスワインは、是非ともブラジルワインにしてもらいたいものだ。もちろん、輸入業者は、競争力のある条件をレストラン側に提示することが必要である。 少し前に、銀座8丁目にあるCAFÉ PAULISTAに出かけた。「銀ブラ」という言葉を広めさせた1911年創業のカフェである。ここのメニューに、サルトン社のクラシック・シャルドネ2015のグラスとキッシュの組み合わせメニューを1,100円で提供していた。このアイデアは素晴らしいもので、他のレストランも同様な方法で新しいメニューを提供してもらいたいところである。
 
以   上
 
写真1 ブラジル南部のワイナリーSINUELO社の工場
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写真2 SALTON社のワイン
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