アメリカ便り「アメリカの銃暴力(下)」 富田さんからのお便りです。
和田さん&W50の皆さん、ご機嫌いかがですか?今週のアメリカ便りは「アメリカの銃暴力(下)」をお届けします。フロリダの銃乱射事件後、トランプ大統領が銃規制強化に言及したところ、銃器の売上が増大しました。何故なのか?
専門家は「家に銃があることこそが最大の危険である」と、警告します。下記のブログをお訪ねのうえ、病めるアメリカの現状を垣間見て頂ければ、幸いです。
富田眞三 Shinzo Tomita
アメリカの銃暴力(下)
写真:(www.rollingstone.com)
成田のチェックイン・カウンターで長尺バッグ用のカウンターに廻されたことがある。その時、筆者の前に並んでいた5人の若い外国人男女は揃って高さ1メーター、横40センチ、幅15センチくらいのメタルの箱を持っていた。係員が箱を開けると、メタリック・シルバーの新品の自動小銃だった。それは息を飲むような、妖しい魅力的な輝きを持つ美しい銃だった。箱にUSAF Kadena AB. Okinawaと書かれていたので、5人は嘉手納基地所属の米空軍パイロットだと分かった。
テキサスに着いて、友人の空軍将校に訊くと、彼らは米国へ新型機を受け取りに行ったのだろう、と教えてくれた。パイロットはそういう場合、非常事態に備えて必ず銃器を持って行くのだと、と言う。
なぜこんなことを書くかというと、米国には銃器の妖しい魅力に囚われて、銃の蒐集を趣味とする人々が多いからだ。西部劇時代のウインチェスター・ライフルとか、種子島銃などは骨董品的価値がある。コレクターが亡くなると、多くの未亡人は真っ先に夫の蒐集した銃器(guns)をガン・ショーに持って行って売り払うのである。一般的に女性は銃に関心が無いどころか、忌み嫌うものらしい。
ガン・ショーとはコンベンション・センター等内で開催される、移動式銃器マーケットで主に中古銃器の買取、販売を行う。年間5000回以上のガン・ショーが全米各地で開催される。通常、二、三日で次の場所に移動し、顧客の身元確認が緩やかな点が問題視されている。
何のために銃を買うのか?
写真:(www.invers.com)
さて、1990年代以前、米国人が銃器を所有する目的は、自分と家族の安全を守ることもだが、主に先に述べた銃器の蒐集とか狩猟、射撃競技のためだった。今世紀に入ってから、10人以上の犠牲者がでた銃乱射事件が14件発生したことにより、銃器問題に関する議論は、如何にしてテロリストや精神障害を持つ人々に銃器が渡らないようにするかが主要なテーマになって来た。
では、米国の銃規制はどのようになっているか、検討してみよう。前回述べたように、米国民は「銃器を保有、携行する権利が憲法によって認められている」。そして、銃器に関する規制は州毎に違うのである。そこで、今回は筆者が暮らす、カリフォルニア州に次いで全米第二位の人口を有する、テキサス州を例にとってご紹介したい。
テキサス州は以前、銃器のオープン・キャリー即ち「銃器を他人に見えるように携帯すること」が禁止されていたが、2016年1月1日から、オープン・キャリーが認められた。なお、全米を通じて、オープン・キャリーが大勢を占めるが、長銃のオープン・キャリーはOKだが拳銃はNOの州(ニューヨーク州、ニュージャージー州等3州)があるかと思えば、拳銃はOKだが長銃はNOの州(マサチューセッツ州、オクラホマ州)もあって、まちまちである。
オープン・キャリーの反意語である、コンシールド・キャリー(concealed-carry)即ち「銃器を他人に見えないように(隠して)携帯すること」は永年テキサス州で銃器を保有する者にとって、事実上唯一の規制であった。
攻撃用武器も買える
写真:(www.invers.com)
と言うことは、テキサスでは銃器(ライフル、拳銃、猟銃等)を購入、保有するに際して、州内に住む18才以上の米国籍者であれば、特別な許可は不要なのである。
しかしながら、若干の規制は存在する。重罪の前科、及び軽犯罪であってもAクラス犯罪の前科(一般的に家庭内暴力、飲酒運転等が該当する)があると、銃器の購入は出来ない。
テキサスでは銃器の銃器登録も不要であり、連発銃用弾倉の装弾数制限もなく、攻撃用武器さえ購入できる。許可を申請すれば、バズーカ砲も購入できる。なお、全ての銃購入希望者は州認定の教官による講習を受け、拳銃熟練試験に合格する必要がある。
長銃(ライフル)の場合は不必要だが、拳銃を持ち歩くときは「携帯許可」が必要であり、オープン・キャリーを行う場合は長銃、拳銃共に許可を申請する必要がある。だが、簡単に入手できる。
銃器購入は州居住者(resident)に限られるが、非移民ヴィジターでも狩猟許可書を有する者や警察、軍関係者は銃器の購入、保有が出来る。18才未満の者も親、保護者の書面による承認があれば、銃器を購入できる。
とにかく、筆者の印象では、銃器の購入に関しては、政府はあらゆる便宜を図ってくれる。例えば、インターネットで他州の銃器店からも購入出来る。但し、商品は購入者が指定する彼の居住地の銃器店で受け取る必要がある。
以上は購入者の場合だが、銃器の販売は州政府の認可を受けた銃器販売店に限られ、販売店は購入希望者の連邦、州両方の犯罪歴と精神、神経病歴等の身元調査を行う義務が課せられている。また、販売店は「連邦銃器取引記録、書式4473を作成し、購入希望者に対して『銃器保有者として適格か否かの調査』を行う必要がある。
驚いたことに、テキサスでは銃器の売買は販売者と購入者が共に法的に銃器を所持出来ると認められている者同士ならば、特別な許可無しに、銃器店でなくともインターネットで見つけた個人から銃器を購入または販売出来る。テキサス州ではその場合、「売買証書」の作成も義務付けていない。要するにテキサスでは、中古品ならば簡単に銃器を売買できるのである。
銃規制の強化→銃の売上増加
今年のサン・バレンタインの日に起こった、フロリダ州のストーンマン・ダグラス高校の銃乱射事件後、トランプ大統領が銃規制の強化に言及したところ、直ちに銃器の売上が伸び、銃器メーカーの株が買われて値上がりした。この驚くべき現象は目新しいことではなく、59名の犠牲者を出した、昨年10月のラスベガス銃乱射事件後も同じ現象が起きていた。
心理学者のサラ・ゴーマン博士によると、銃乱射事件は人々に恐怖心を抱かせ、その結果銃器を買いに走らせ、銃器メーカー株に買い注文が殺到するのである。銃暴力への恐怖心は人々に彼ら自身を防御したい、と思わせると共に、乱射事件後の銃規制の強化によって銃の購入が難しくなる前に、銃器を購入しなければいけない、とも思わせるのである。
人間はこのような危険に直面すると、科学的判断ではなく、むしろ感情に基づいて危険度を判断する傾向がある。我々は興味本位のテレビ放送や人々に恐怖心を植え付ける議論を見聞きする結果、想像は付くが、起こりそうもない危険により注目してしまう。
この危険度への過剰反応が米国人を銃器の購買に向かわせるのだ。ゴーマン博士によると、これにはもう一つの罠がある。即ち、「銃器によってあなたの安全が保たれ、銃器が家にあると、あなたの家族はより安全になる」との誤った確信へ人々を導くのである。
写真:(www.aliengearholster.com)
ゴーマン博士曰く、「実際、もしあなたが銃器を買って自宅に保管するとしよう。すると、あなた自身或いは家族の誰かが、事故であろうと自殺または家庭内の論争の果てであろうと、その銃器によって配偶者、自分自身または子供たちの命を奪うために使う可能性が非常に高くなる。ところが、この現実をいかに説明しても、誰もがそんなことは我々には絶対起こりっこない、と反論されるだけなのである」と。
米国の世帯の40%が少なくとも1丁の銃器を保有しており、その総数は3億3千万丁と推定されている。かつて、未成年者が母親所有の自動小銃を持ちだして、銃乱射事件を起こしたことがあった。銃器が家にある限り、銃器による殺傷は続くのである。
(終わり)